*「無智亦無得 以無所得故」
(人間はもともと得るものが無いのだから、智も得もない)
人間は誰でも生まれたときは裸です。持ち物も何もない。人間は“本来無一物の存在です。
ところが裸で生まれてきた人間も成長するに従い、必要な生活必需品、すなわち、最低の衣・食・住が与えられる。また自分の力で手に入れることによって、いつの間にか、「僕の物」「私の物」といった我執が生まれ、「他人の物」と区別するようになる。
しかし、よく考えてみると、いかにも自分の力によって得ることが出来たように見える知識や教養・学問といったものさえも、すべて他人によって与えられたものばかりであります。
社会の中で生きている以上、互いに助けられたり助けたり、という関係で毎日を過ごすことになるのだから、“自分だけの力で得ることが出来たものなんか何一つないのです。
ただ単に“縁によって与えられたものを一時的に所有させてもらっているだけなのです。
こう考えれば、自分の獲得した知恵や物であったと信じていたものも、結局一時的な借り物に過ぎなかった、という事が理解出来るのではないでしょうか。
したがって、本来無一物であるわたくしという人間に、“私の智慧(智)、“私の物(得)などと言えるものは何一つなかったのだという事です。